中国のオープンサイエンスの現状を解説した、ネイチャー誌5月24日付け記事"Keeping a lid on open science"(試訳:オープンサイエンスに蓋)を紹介する。
中国は科学の国際会議を主催したり、また中国科学院(CAS)と国家自然科学基金委員会(NSFC)が2003年のベルリン宣言に署名するなど、オープンサイエンスの原則を取り入れる意思表示をしている。しかし、厳正な政府による出版規制や情報の制御により、オープンサイエンスが前進しているとは言えない。本記事は中国が抱えるさまざまな課題を指摘する。
- オープンアクセス誌で出版された中国論文は急速に増加している。しかし中国国内のOA市場は政府の強固な規制下にあり、さまざまな課題がある。雑誌を出版するには政府の許可が必要で、素材のすべてを印刷しなければならい。そのためオンラインのみのOA誌とは異なり、費用が高額となる。またOA誌の中には、複製できないようにする著作権の取り決めをしているものもある。
- OA誌での論文出版は増えているものの、研究者当たりの平均引用数の伸びに貢献しているとは言えない。質の高い研究論文は投稿先としてOA誌を選択しないからである。
- CASとNSFCは2014年、助成論文を12か月以内にパブリックアクセス可能なオンライン・リポジトリにアップロードすべきと発表したが、大学によるリポジトリの開設はまだ行われず、リポジトリがあったとしても研究者の多くはこれを無視している。OAリポジトリのディレクトリであるOpenDOARにリンクのある中国の研究機関はわずか22機関である。
- 中国のオープンサイエンス推進のためのイニシアチブとして、国立科学図書館(NSL)は2016年に物理学だけでなく、分野を問わず利用できるarXiv.orgのようなプレプリントデータベースChinaXivを立ち上げたが、arXiv.orgから信頼性のある最新の研究成果が得られるため、活用はあまり進んでいない。
- 政府のインターネット・ファイアウォールによってブロックされるため、ソーシャルメディアを活用して研究のインパクトを図るオルトメトリックのようなプラットフォームを介した情報の共有ができない。